さくらいふ

28歳女ひとり、インドと日本の狭間で

ガンジス川に人生を変えられたはなし

ナマステ!
最近サウナとジョギングでにはまってギンギンにととのっているわたしです。


今日は、私が「インド」を語るときに欠かせないガンジス川についてお話ししたい。

インドといえばガンジス川といっても過言じゃないくらい、私の中でガンジス川の存在はでかい。

 

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私が初めてガンジスに出会ったのは10年前。
19歳の冬に1人でインドを旅したときだ。

当初はメジャーな都市だけ廻って帰るつもりだったので、「ついでに」寄ったバラナシという街。街の中心に流れるミルクティー色に濁った川が、ガンジス川だ。

第一印象は「こんな川見たことない」だった。

波紋も、流れも、無数に浮かぶボートも、川向こうに登る朝陽も、川沿いに並ぶ緻密なデザインの寺院も、濁った川で洗濯をする人々も、すべてが唯一無二のものだった。

ガンジス川の流れに沿う街並みが、この世のありとあらゆる景色の中で、いちばん美しいと思った。10年経った今もその気持ちは変わらない。

 

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日本に帰ってからもバラナシという街が、ガンジス川のことが忘れられなかった。寝ても覚めても、夜中に起きたトイレの中でさえ、インドのことを考えていた。その2ヶ月後にまたインドに戻った私は、バラナシの国立大学のヒンディー語コースに出願した。

10ヶ月間の留学中、私は毎朝毎夕ガンジス川沿いを散歩した。
朝5時に起きてまだ薄暗い小道を、就寝中の牛とその糞をよけながら歩くと、夜明けの中に照らされる静かなガンジス川が迎えてくれる。

観光客を待ち構えるボートマンも、私には声をかけてこない。
朝陽が昇る前のガンジス川はとても静かで心地いい。
泳ぐおじさんたち、祈りを捧げる人、沐浴する人、チャイをすする人たち、さまざまな人が思い思いの時間を過ごしている。

 

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いつもチャイを一杯飲んで、太陽にきらきら光るガンジス川を見ながら今日も世界が平和でありますように、と祈るのが日課だった。


一年中観光客が絶えないこの街で、無数の日本人旅行者と出会った。
こちらが日本人とわかるとすぐ話しかけられるし、在住者とわかると美味しいご飯やを紹介してくれとか、バラナシでの過ごし方を教えてくれといつも言われた。

「この街は、特に計画を立てず路地を散歩したり、行き当たりばったりでぼーっと過ごすのがいいですよ」というと旅行者たちは納得いかないという顔をした。

 


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ウェイ系男子大学生にはいつも「やっぱ沐浴とかするんですか??www」とか「インド人男性からモテますか??www」と聞かれて、心底うんざりしていた。
カフェなどで日本人男子大学生を発見すると、気配を消してよく日本語がわからないふりをしていた。

「仕事をやめて、とりあえずインドに来てみた」という20代後半から30代前半の日本人もけっこういた。ハタチだった私はそんな人たちと一緒にガンジス川を見つめながら、「まあ人生長いので、あせらずいきましょう」なんて言っていた。

私も留学中、人間関係や恋愛、将来の進路などいろんなことで悩んで、ときには人生に絶望し、自分に絶望しながら、ゆく川の流れを見つめていた。
いつまでもいつまでも見ていた。


日本人はみんな人生に悩んだら、インドに来ればいいのにと思った。

全く違う価値観やにおい、風景の中に身をおいて、自分自身ともう一度出会えばいいと思う。

死にたくなったら、死ぬ前に一度インドに足を運んでほしい。
悩んでいたことがどうでもよくなるような場所だから。

 

来ては去って行く旅行者を見つめて、私は彼らがうらやましかった。

彼らには「帰る日常」があって、この街のことを、ガンジス川のことを忘れることができる。

私には忘れられない。一度出会ってしまったら、もう一生忘れられない。

 

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留学を終えて日本の大学に入った後も、バイトしまくって年に2回インドに飛んだ。

その度にガンジス川は変わらない姿で迎えてくれた。


川沿いのチャイ屋の親父も、ボートマンも、土産物屋の店主も、私のことを覚えていて、

少し痩せた私を見ると「日本での暮らしは大変なのか?ちゃんと食べろ」と言ってくれた。

 

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バラナシに着いてガンジス川沿いの風景を見るたび、「ああもうどこにも行かなくていいんだ」「もうどこにも行きたくない」という気持ちになった。

私にとってバラナシは最終目的地だった。

インドの他の街に行っても、すぐバラナシに帰りたくなった。

タイやベトナムに行っても、インドらしい混沌さやインド人の屈託無いフレンドリーさを探していた。それらはインド以外の場所にはどこにもなかった。


今はバラナシにしょっちゅう行かなくても生きていけるようになった。

目をつむればすぐに思い出せるくらい、一本一本の路地や、チャイの味や、偉大で荘厳な母なる川の景色が心の中に染み付いている。

 

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あの場所がこの地球の中にあるということが私の支えになっている。


いつか子どもができて年を取ったとき、私の遺灰はガンジス川に流してねと言うつもりだ。

 

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